水素材料先端科学研究センター

研究部門

高分子材料研究部門

水素エネルギー社会を構成する水素機器には、水素ガスをシールするためのゴムや樹脂材料が使用されています。高圧水素ガスへの曝露や水素ガスの加減圧に伴うOリングなど水素シール材の破壊が懸念されています。図にゴム製Oリングの高圧水素による破壊モードを示します。ゴム中に溶解した水素によりブリスタ破壊、はみだし破壊、座屈破壊が発生します。
 高分子材料研究部門では、高圧水素雰囲気に曝露したゴム・樹脂材料の水素ガスによる破壊現象の解明を進めています。材料中への水素溶解挙動を昇温ガス脱離分析や核磁気共鳴法を用いて調べ、材料の破壊挙動との関係を検討しています。さらに、破壊挙動と使用環境、材料組織や分子構造との相関を検討し、耐水素特性に優れた材料開発指針の確立を目指しています。

高圧水素ガスシール用Oリングの破壊モード

ブリスタ破壊

EPDM(Hs70):H2×35MPa×100°C×15hrs.

原因

高圧水素曝露時にゴム材料中に溶解した水素が減圧に伴い気化することにより気泡発生からき裂進展に至る

対策

(Oリング用ゴム材料の対策)
  • 水素溶解量の低いゴム配合の開発
  • 硬度が高く、破壊強度が大きいゴム配合の開発
  • 充填材のカーボンブラックは補強効果が高いが水素吸着によりゴムの水素溶解量が増大する。補強効果が高く、水素吸着が小さい充填材を探索

はみ出し破壊

EPDM(Hs70):H2×35MPa×100°C×15hrs.

原因

水素による膨潤のため、ゴム材料の常態 値で設計されたOリング溝の断面積を越 える体積増加によりはみ出し破壊に至る

対策

(Oリング用ゴム材料の対策)
  • 水素溶解量の低いゴム配合の開発
  • 膨潤による体積増加率の低い ゴム配合の開発
  • 水素溶解量が低いゴム材料の 探索
(Oリング溝設計の対策)
  • 使用環境(温度、水素圧力など) におけるゴム材料の体積増加を前提とした充填率設計
  • 使用環境(温度、水素圧力など) におけるゴム材料のはみ出し破壊、座屈破壊の限界値を把握

座屈破壊

EPDM(Hs70):H2×70MPa×100°C×3hrs.

原因

水素による膨潤のため、Oリングの円周方向に体積膨張が発生し、座屈発生に至 る。

対策

(Oリング用ゴム材料の対策)
  • 水素溶解量の低いゴム配合の開発
  • 膨潤による体積増加率の低いゴム配合の開発
  • 水素溶解量が低いゴム材料の探索
(Oリング溝設計の対策)
  • 使用環境(温度、水素圧力など)におけるゴム材料の体積増加を前提とした充填率設計
  • 使用環境(温度、水素圧力など) におけるゴム材料のはみ出し破壊、座屈破壊の限界値を把握
  • ※はみ出し破壊の対策と同様
部門長 杉村 丈一
部門長 西村 伸

活動概要

水素エネルギー社会を構成する水素機器には、水素ガスをシールするためのゴムや樹脂材料が使用されており、高圧水素ガスへの曝露や水素ガスの加減圧に伴うOリングなど水素シール材の破壊が懸念されている。高分子材料研究部門では、高圧水素雰囲気に曝露したゴム・樹脂材料の水素ガスによる破壊現象の解明を進めている。また材料中への水素溶解挙動を昇温ガス脱離分析や核磁気共鳴法を用いて調べ、材料の破壊挙動との関係を検討している。さらに、破壊挙動と使用環境、材料組成や分子構造との相関を検討し、耐水素特性に優れた材料開発指針の確立を目指している。

委員等

  • (一社)日本ゴム協会
    • 理事
    • 九州支部長
    • 水素機器用エラストマー材料研究分科会 主査
  • ISO TC197/WG22
    • エキスパート,国内委員会委員
  • 科学技術振興機構
    • 科学技術イノベーション創出基盤構築 事業 領域アドバイザー
  • 環境省
    • 廃熱利用等によるグリーンコミュニティー推進実証事業 審査委員会